仲村比呂のブログ

Written by Nakamura Hiro

転職って辛くないですか?

 少し前に転職に関する情報は何も持ってないと書いたけれど、実際は一度だけ転職をしている。

 新卒で入ったその会社は、一応は名が知れた一部上場企業だったが、入ってわずか一年足らずで辞めてしまった。

 その会社は、ファッション関連会社だった。

 元々ファンションセンスなど人並みなのに、急におしゃれさんがうようよするような会社に入ってしまったのが大きな間違いだった。

 同期のみんなは、ファッションが大好きで大好きで入ってきた人ばかりだったのである。会社に入っても、勉強しなくてはと言って仕事が終わってから専門学校に通学している人もたくさんいた。

 そんな中で、ただ有名企業だからというだけで、入ってしまったのである。

 とにかく仕事は忙しかった。ほとんど休みがなかったほどである。たぶん、今は変わっているだろうが、傍から見れば、当時はブラック企業と言われてもおかしくない状況だったかもしれない。

 しかし、みんなそんな中でも嬉々として働いていた。とにかく好きなファッションに携われるという喜びが優先していて、労働環境などどうでもいいようだった。

 ただ生活のために働くと思って自分は、最初は仲良かった同期達とも次第に話が合わなくなっていった。

 そして、いろんな失敗が重なったこともあり、もうもたないと思って早期に退職届けを出したのだった。あのまま働いていたら完全にうつ病になっていただろう。うつ病の早期の見つけ方はいろいろあるけれど、出来ていた仕事が出来なくなったり、失敗が続いたりすること思う。

 自分の場合は、完全に後者の方だった。しかし、この失敗の連続が幸いした。すんなり辞める踏ん切りをつけることができたからだ。

 会社というのは去る者に冷たいと言うが、やはりせっかく吟味して新規採用した新卒者に対しては優しい。そして大切に扱ってくれる。

 自分が辞めるときも、上司どころか人事部も何度も話を聞いてくれて、不満や愚痴を遠慮無く話すことができた。そして、驚くことに数年後行きたい部署に行かせてやるという約束手形まで出してくれた。

 もちろんそこには、新採で辞められたら困るという上司の損得勘定も働いていたとは思う。しかし、高級料亭やクラブに連れ回し、辞めるのはよしますと言うまで、必死に飲まそうとする態度には、必死さだけではなく、深い愛情も感じられた。

 結局は辞めることになったのだが、その時たった一年で辞める自分のために、ささやかな送別会を開いてくれた。その時、直属の上司が高そうな白いコートを着てきたのだが、二次会の終わりがけにそれを脱いで、私の背中にそっと掛けてくれた。そしてこう言った。

「おまえも色々大変だっただろうけど、いい思い出もあっただろう。それを大切にしてくれ」と。

 それを聞いた途端、涙が止まらなくなった。やはり、どこまで行っても最初は自分が好きで選んで入った会社である。辞めるのがつらいのは当然だった。それはどこか好きだった恋人と別れる時と同じ気持だった。

 今もそのコートは、クローゼットの中に大切にしまってある。そして、そのコートを見るたびに、その上司と会社のことを思い出す。

 そして、一年足らずしか働いていなくても、いろんなうらみやつらさもあるが、その会社にいたことを誇りに思う。そして、今でもその会社の服を律儀に買い続けている。

 今は、入った会社が合わなければどんどん辞めて、次のところを探せばいい。会社はキャリアップの手段に過ぎないという風潮もあるが、その考えは別に否定しない。

 ただ、自分が選んで入った会社で、せっかく過ごした会社を、後から簡単にブラック企業だっただの、最低の会社だったと言ってしまうのは、あまり褒められたことではないと思う。ずっとブラック企業のままとも限らないし、ピンチや、拡大期の一時のことかもしれない。何しろそこに残る人達がいる。

 特異な能力がある人は別として、ほとんどの人は勤め人である。そして、それは組織に所属することでもある。好きで働いている人だけではなく、そこで働き続ける、いやでも働かざるを得ない人がたくさんいる。そして、そういう人達が会社を支えている。

 そういった人達とのささやかな思い出は、人生のキャリアには直接役に立たないかもしれなけれど、人生を生きるために後々必ず役に立つ気がする。

 というのが、唯一転職にまつわるささやかな思い出です。まったく転職活動には役に立ちそうにありませんが、ごめんなさい。

 今、アパレルは苦境ですが、何とか頑張って欲しいと思う仲村でした。

 ではまた

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