仲村比呂のブログ

Written by Nakamura Hiro

悲しみは悪意になる?

 人の感情を表すものに、喜怒哀楽という言葉はあります。悲しみは哀しみと同じ読みですが、意味する内容は違っています。
 悲しみとは、もっと具体的な行動を伴うものでしょう。例えば泣くとか叫ぶとかだとお思います。

 

 イタリアでは「悲しみ」という言葉に、「悪意」というニュアンスがあると聞いたことがあります。
 つまり、悲しみというのは悪い意思表示なのだと。

 

 恐らく、その意味するのは悲しいと思うのはいいけれど、それを外部に出すときは気をつけた方がいいということでしょう。
 「悲しい」と聞いて、最初に思い浮かぶのは、親しい人が死んだときでしょう。確かに子どもに限らず、それがわかった途端に泣き叫ぶでしょう。

 

 しかし、もし大人がいつまでもずっと泣き続けていたとしたら、最初こそ同情するでしょうが、次第に周囲は辟易すると思います。失恋も同じです。
 つまり、「同情を押しつける」。そこまで行くと、悲しみも悪意と化しかねないということだと思います。

 

 かといって、いかに悲しむか。それは前もって準備などできないので、遭遇したときしかわからないでしょう。ただ、その悲しみ方にこそ、その人の品性が出ると思います。

 

 少し前に、タレントさんの娘さんが交通事故に遭遇してなくなられました。そしてそのタレントさんは、しばらくの間、情報番組にひっぱりだことなり、ついには自動車保険のCMに悲壮な顔をして出てきました。

 

 当初こそ、視聴者はこの痛ましい事件を思い出しては、父親であるタレントに同情し、悲しい思い共有しました。しかし、その数年後もそのCMは流れ続けました。
 しだいに、多くの視聴者は、そのCMを見るのが苦痛となり、チャンネルを変えるようなったいいます。
 それが、悲しみの発露が悪意に変わった瞬間なんでしょう。

 

 悲しみは、出来れば出会いたくない感情です。そして、人にも悲しい思いをさせたくない感情です。このCMのように一時は共感を持って受け入れてくれますが、それは当人の悲しみを楽にさせたいと優しさから生じています。

 

 やはり、どんなに悲しいことがあっても、最終的には一人での悲しみを処理すべきだと思います。「失恋したとき」、「試験に落ちたとき」、「誰かが死んだとき」。
 泣き、叫び、髪の毛をかきむしったとしても、人に見られている限り最低限にすませるべきだと思います。

 

 だったら、なぜ人は悲しい映画や文学を見ようとするのか。それは他人の死別や失恋などはただの事実でしかありません。どこまでいっても断片的なものです。逆に映画や、文学は物語です。すべての状況を知り、自らを登場人物に投影し、仮想の経験が可能です。断片的な事実だけで、他人に悲しみを押しつけるのはやはり悪意となるのでしょう。

 

 「悲しい」。その気持ちは、残酷なようで、やはりその当人だけのものです。
 だとしたら、その当人だけの悲しみを自分の中だけで制御できるようになればいいのか。
それはやはり、多くの悲しみを経験するしかないと思います。
 そして、悲しみは悲しみとして避けられないものであり、最終的には慣れるしかないのだと思います。

 

 悲しみに慣れる。それが強くなるということです。
 それとは別に、強くなんてならなくてもいい。泣きたいときには泣けばいいという考え方もあると思います。

 

 ただし、それでもやはり独りで泣くしかないと思います。独りで泣いたことがあると思いますが、そんなに長くは泣くことはできないと分かるでしょう。
 子どもが泣き続けるのは、それは甘えられる人がいるからです。

 

 フランソワーズ・サガンのデビュー作に「悲しみよこんにちは」という作品がありますが、人は悲しみを自ら求めたり、無ければ作り出したりするところがあります。
 悲しみはふと見回すだけで無限にあります。喜びは探し出さなくてはなりません。つまり、悲しみに取り囲まれていると言ってもいいでしょう。

 

 そして、悲しみがあるからこそ喜びがあるのも事実です。
 ですから、サガンの悲しみの「悲しみよこんにちは」という題名も、元はポール・エリュアールの詩から取られたものですが、やはり最後は、こういう気持ちで受け入れられたらと思います。
 

 フランソーワーズ・サガンの小説は内容よりも文章が好きな仲村でした。
 ではまた 

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